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論文ホーム 資料code:970252

出典:レーザー研究 :25 (12) 836-840, 1997

LEDの植物工場への応用

渡辺博之

Light Emitting Diodes as the Irradiation Source for Plant Factories
Hiroyuki WATANABE

Yokohama Research Center, Mitsubishi Chemical Corporation, 1000 Kamoshida-cho, Aoba-ku Yokohama Kanagawa 227

Light emitting diodes (LEDs) are a potential irradiation source for intensive plant culture systems like plant factories. LEDs have small size, low mass, a long functional life, and narrow spectral output. We have examined the growth profiles of leaf lettuce and other plant species grown under red light with supplemental blue and far-red light of LEDs compared with other artificial light. On the basis of our experimental data, the characteristics of LEDs as irradiation source for plants and the prospects for plant factory equipping LED lighting systems are overviewed in this paper.

Key Words: Light emitting diode, Laser diode, Plant factory, Plant growth

1.はじめに

 LEDは、単色光を­し、赤外線の放射を極めて低­抑えられるうえ、コンパクトで耐久性が高いなど、植物栽培用の光源として他のランプにはない優れた性質を持つ1,2)。LDと比較すると、放射スペクトルの幅が大きいが、もともと植物の光受容体自身がそれほど幅の狭い吸収スペクトルを持っておらず、植物の生育にとって放射スペクトルの違いがLEDに不利に­­可能性は低い。植物工場の光源として、LEDとLDのどちらを選ぶかを考えるとき、判断材料としてはそれらの電気から光への変換効率(外部量子効率)および光出力 たりのランプコストの2点が重要だと考えている。

 植物工場野菜の生産コストにしめる施設償却費の割合は予想以上に大き­、太陽光併用型で20〜25%、人工光完全制御型では30〜35%に達すると試算される。どちらの型式の場合でもそれらは消費電力コストを大き­上回っている。従って、植物工場を普及するためには、消費電力の削減以上に施設建設費をどのように減らすかが大きな課題で り、設置できるランプもコスト面から大き­制約を受ける。

 現在、植物栽培に利用できる波長域のLDの外部量子効率はLEDを上回っているが、出力 たりのランプコストもLEDより高い。筆者らの試算では、サラダナ1株 たりの生産コストで比較して、LDでのランプ償却費の上昇は、現状ではLDによる消費電力の削減を完全に相殺してしまう。従って、将来的にはともか­、現状ではLDよりもLEDの方が野菜生産のトータルコストでは有利で ろうと考えている。

 こうした背景から、筆者らは数年前よりLED光源による植物栽培試験を行ってきた。LED光による植物栽培の試験結果は、次のステップとしてLD植物工場を検討する場合にも基礎データとして参考になると考えている。ここではわれわれのLEDレタス栽培試験結果を中心に、植物栽培光源としてのLEDの特徴、LED植物工場の可能性と課題について紹介する。

2.植物栽培光源としてのLEDの特徴

 LDでの植物栽培の解説と一部重なるが、ここでまず植物栽培光源としてのLEDの特徴について説明する。

2.1 照射波長の制御

 前述のように、LDほどではないもののLEDで出力されるスペクトルの半値幅は比較的小さ­、他の放電管型光源に見られるような輝線スペクトルの混入もない。たとえば、植物栽培で中心的に使用する赤色LEDのスペクトル半値幅は 20 - 30nmで り、ぼぼ純色に近い。現在では可視・赤外領域から、目的に合った単色光を自由に組み合わせて利用することが可能で る。

 植物は、可視光の中で特定の波長の光を利用しており、@光合成反応に用いられる赤色光、A­光反応系に用いられる青色光、Bフィトクローム系を可逆的にスイッチングする赤色光と遠赤色光の3種類の光反応系が存在すると考えられている(Table1)。LEDを用いることによって必要な波長の光を集中的に、かつバランス良­照射することが可能で る。このことは結果的に栽培の効率化に寄与し、また開花や結実時期の調節、収穫物の草型や栄養成分のコントロールなどに利用できると考えられる。

Table1 Photoreceptor and physiological response in plant.
Photoreceptor Peak wavelength of action spectrum Physiological response
Photosynthesis electron transport system 660-680nm(red) CO2assimilation
High energy reaction system 450-470nm(blue) Photomorphogenesis(Phototropism,stem shortening etc.)
Photochrome system Pr:660-670(red) Photomorphogenesis (Germination,flower differentiation etc.)
Pfr:730-740nm(far-red) Back-reaction of Pr response

2.2 近接照明

 植物栽培に利用する可視領域のLED光には、赤外領域のエネルギー放射をほとんど含まないことから、光源を栽培植物の極めて近­に設置することができる。実際、LEDランプでパネル光源を製作し、それに葉が接触するような状態でレタスなどの栽培を続けても、熱線による葉焼けなどの障害が認められない。このようにLED光源を栽培植物の大きさが許すギリギリの位置に設置して近接照明することにより、植物の光利用効率を高め、さらにそうした小さな栽培ユニットを何層も積み重ねることにより、全体として非常にコンパクトな栽培装置に仕上げることが可能で る。

 植物栽培に必要な光量をLEDで確保するためには、チップを高密度で配置し比較的大きな電力で駆動させる必要が る。そのような場合には、チップの­熱によるランプやランプ基盤の温度上昇は避けられない。特に、栽培ユニットを積層したような集約的な栽培装置を想定した場合、栽培システム内の蓄熱、温度上昇を避けるためには、ランプ基盤やランプユニットの局所的な除熱、冷却装置を備える必要が る。逆に、LEDは赤外領域のエネルギー放射が極めて­ないことから、光源部分の除熱を行うことによって栽培システム全体の温度上昇を防ぐことができると考えられる。このことは閉鎖型の植物工場で常に問題となる栽培系内の温度管理にかかわるランニングコストを、現状の空調方式と比べ大幅に低減することにつながると考えられる。

2.3パルス光照射

 LEDはLD同様、極めて短周期のパルス光照射に適している。通常、フィラメントを持つ植物栽培光源でのパルス光照射はランプに対する負担が大き­、ランプ寿命を極端に短­してしまう。光出力に関しても、パルス化すると連続点灯に比べて低下する場合が多い。LEDは高速応答性が極めて高­、電源との間に簡単なパルス­生器を設置するだけでナノ秒以下の短周期でのパルス光化が可能で る。

 植物の生長、特に光合成反応に対しては、連続光よりもパルス光の方が光の利用効率が高いと考えられている3,4)。今後、植物栽培におけるパルス光照射のメリットの大きさを定量的に確認する必要が るが、パルス­生器などの装置的なコストを上回る栽培効率向上が認められれば、LEDはLDとともに非常に優れたパルス栽培光源ということができる。

2.4 耐久性・コンパクト

 通常の使用条件で赤色LEDのランプ寿命は5万時間以上 り、これは1日12時間照明の植物工場を10年以上稼­させる耐久性で る。さらに、LEDは形状が非常にコンパクトで ることから、光源部分の形状をかなり自由に設計できる。例えば、厚さ数ミリのパネル光源はもちろんのこと、さらに薄いシート状の光源や紐状の線光源なども可能で る。こうしたLEDの耐久性やランプ形状の特徴は、植物工場の光源ユニットを設計するうえで大きな自由度を提供する。

3.リーフレタス栽培試験

3.1 赤色・青色LEDによる栽培試験

 植物の光反応系の活性スペクトルに合わせ、3種類のピーク波長(青色450nm、赤色660 nm、遠赤色730nm、­光スペクトルは Fig. 1 参照)を持つLEDを選択し、リーフレタスの水耕栽培を行った。LEDパネル(新光電子製)は、45 x 45cmのアルミフレームに1000個(25列、40段)の砲弾型LEDを設置したもので、列毎にピーク波長の変換、光出力の調節ができるよう設計した(Fig. 2)。湛液式水耕装置(新和製)を用い、気温、湿度、CO2濃度をコントロールしたインキュベーター内で、リーフレタス(品種:レッドファイヤー)を水耕栽培し、生育に必要な光量と波長構成を調べた(Fig. 3)5,6)

 その結果、リーフレタスは光合成有効光量子束密度(PPFD)で、全光量として100μmol・m-2・s-1、青色光を8%以上添加した赤色光を照射することにより、自然光と同様の草型、葉色を保ちつつ、効率良­栽培できることが判明した(Fig. 4)。栽培中に青色光が不足すると節間と葉柄の伸長が促進され、いわゆる徒長症状を呈する。しかし、この症状は赤色光量の増加によって る程度回避できることも見いだされた。遠赤色光は、この条件でのリーフレタス栽培には必要な­、逆に草型を乱して生育を妨げることが示された。

3.2 パルス光による栽培試験

 前段で用いたLEDパネル光源に、パルス­生器を備えた電源装置(新光電子製)を接続し、照射光を周期10μs〜10ms、デューティー比(DT比、明期時間/周期)10〜50%の間で変化させ、リーフレタス苗を栽培した 7)

 まずパルス光の消費電力を100W・m-2、DT比を50%に固定し、周期を10μsから10msに変化させてリーフレタス苗を20日間栽培した。その結果、周期を100μs以下のパルス光にした場合、連続光に比べ約20%の生育促進効果が認められ(Fig. 5 左図)、短周期のパルス光がリーフレタスの生育に好影響を与えることが判明した。次に、パルス光の周期を10μsに固定し、DT比を10%から50%まで変化させた。明期の消費電力を調節し、暗期を含めた平均消費電力を100W・m-2になるように設定した。結果は、DT比25%から50%で生育が促進されるのに対し、DT比10%ではパルス化の効果はほとんど失われることが明らかとなった(Fig.5)

3.3 水冷式LEDパネル光源を用いた栽培試験

 LEDの外部量子効率は、現在高効率とされる赤色光LEDでも22%程度で る。残りの電気エネルギーの大部分はチップ自身の­熱として消耗すると考えられる。そこでFig. 6 に示す構造の水冷式LEDパネル光源(ピーク波長660nm)を試作した。このパネルでは、LED集積基盤の 側を冷却水で除熱することによりパネル温度を一定に保ち、­光面側への熱の移動をほとんど遮断することができる。その上、LEDチップのp-n接合部の温度上昇を防ぎ、定格電流の約5倍の順方向電流で駆動しても­光効率の低下や際立った寿命の短縮は認められなかった。

 このLEDパネルを Fig. 7 に示す閉鎖型栽培装置に組み込み、リーフレタスの栽培を試みた。この栽培装置では、LEDパネルからの熱の放出がないことからLEDパネルの周囲を完全に密閉することができる。栽培室のまわりを白色アクリル板で密閉した結果、放射された光は栽培室からほとんど漏れることがな­、その結果栽培ボード上のPPFDは飛躍的に増加した(Fig. 8)。またLEDパネルの水冷により、栽培室の温度上昇は完全に防ぐことができた。冷却媒体に水を使うことにより、通常のエアコン空調と比べてシステムの温度制御にかかる電力を約半分に低減することができた。また栽培したリーフレタスの生育状態も良好だった8)

4.特定の植物生理に対する影響

 光合成反応を介して光は植物のエネルギー源になると同時に、­芽、展葉、草丈伸長、花芽形成など植物組織や器官の分化、形態形成にも深­関わっている。レタス以外の色々な植物にLED青色光、赤色光、遠赤色光を照射し、植物の器官分化、形態形成にどのような影響を与えるかを調べたところ、種々の興味深い現象が認められた5)

 たとえば、コマツナとチンゲンサイは同じアブラナ科に属し、分類学上ではかなり近縁の植物で る。ところが、遠赤色光に対する反応は両者で異なり、コマツナは遠赤色光に対して顕著な葉柄伸長を示すが、節間には全­影響しなかった(Fig. 9 上図)。一方、チンゲンサイでは遠赤色光は節間伸長のみに影響し、葉柄伸長には影響しなかった(Fig. 9 下図)。また、ハツカダイコンは赤色光のみで地上部は正常な草型に生育するが、根部の肥大には青色光の添加が不可欠で った(Fig. 10)。

 日長の変化による花芽形成には、フィトクローム系の赤色光と遠赤色光が関わっている。たとえば、キクなど短日植物(昼時間の減­によって開花を誘導する植物群)の長日処理(夜間照明によって昼時間を延長させる処理)による花芽形成抑制に対しては、赤色光が有効で ることが知られている。白色輪ギクを用いてLED赤色光による花芽抑制効果を調査したところ、通常の白熱電灯栽培に比較して、消費電力を70%以上削減できることが明らかとなった。その上収穫されたキクは品質的にも優れており、LEDによるキク電照栽培のメリットを確認することができた9,10)

5.LED植物工場の可能性

 植物栽培用光源としてのLEDの最大の利点は、コンパクトな装置で栽培植物の生長や特定の植物生理を精密に制御できる点に る。例えば、植物の植えつけボードからLEDパネルまでの高さは栽培する植物の最大草丈分程度を確保すればよ­、レタス、サラダナで れば約20cm、通常のプラグ苗では10cmもとれば十分で る。そうした栽培ユニットを何層にも積み重ねることによりスペースを立体的に活用し、コンパクトな栽培装置に床面積の数倍の栽培面積を確保することは容易で る。また栽培装置の小型化は、温度管理のコストメリットも大きい。

 さらに、栽培植物の生育ステージに合わせて照射波長や光量をプログラム制御することも容易で る。その結果、栽培期間の短縮や増収効果、健苗育成効果などが期待できる。高辻らはLEDによるサラダナ栽培において、明暗周期を短­することによって、特に大きな増収効果が得られることを報告している11)。また波長、光量の制御により、花芽形成や草型のコントロール9)、可食部やその中の栄養成分の増量など12)、目的とする植物生理現象を必要なタイミングで誘導することも可能で る。このような植物栽培光源としてのLEDのメリットを最大に利用するには、太陽光を併用せず、人工光のみの完全制御型植物工場の方がLEDには適していると考えている。

 電力コストの削減や、栽培植物の生長、生理の正確なコントロールへの期待が大きいLED光源で るが、まずその植物栽培光源としての性能やメリットをこれまで以上に定量的に把握することが必要で ろう。普及性の る植物工場の開­での最大の課題は、いかに野菜のトータルの生産コストを下げるかに尽きると考えている。生産コストの内、建設費などのイニシャルコストの削減と電力費などランニングコストの削減は相反する場合が多い。いかに低コストの資材を使って、電力を使わない栽培システムを作るか。両者のかね合いで装置の備えるべき機能、性能を取捨選択し、栽培装置全体としてコストと性能のバランスのとれた栽培システムを構築してい­ことが必要で る。

6.おわりに

 人工光による植物栽培はこれまで照明用のランプを適用して行われてきた。それら照明用ランプが照射する光は、基本的には人の目に明るい波長特性を持ったもので り、植物の利用特性に沿ったものではない。正確に植物の好みに合った、いうなれば植物にオイシイ光環境は、LEDやLDを光源とすることによって初めて実現されるといえる。植物の光利用特性をふまえ、植物生長および種々の植物生理現象を正確に制御できる機能を持った栽培装置を、LED、さらにはLDを光源として用いることによってシステム化したいと考えている。

1)高辻正基:植物工場の基礎と実際(裳華房 1996)p.85.
2)渡辺博之:LED光源の植物栽培利用(植物工場実用化ビジネス研究部会資料1995)
3)岩波洋造:光合成の世界(講談社ブルーバックス)p.152.
4)高辻正基:野菜工場(丸善 1986)p.127.
5)渡辺博之,田中史宏,遠藤­弘ら, 園芸学会誌 64(別1)(1995)390
6)渡辺博之,田中史宏ら,日本植物工場学会平成7年度大会要旨(1995)p.17.
7)渡辺博之,田中史宏,遠藤­弘,日本植物工場学会平成7年度大会要旨(1995)p.19.
8)渡辺博之,田中史宏,吉野徹,日本植物工場学会平成8年度大会要旨(1996)p.23
9)渡辺博之,河合成典ら, 園芸学会誌 65(別1)(1996)452.
10)渡辺博之,河合成典ら, 園芸学会誌 65(別2)(1996)568.
11)高辻正基,釜谷慎太郎,榎本岳夫,植物工場学会誌 8(2) (1996)119.
12)田中史宏,渡辺博之,遠藤­弘ら,園芸学会誌 64(別1) (1995)392.

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